ユーザーへの無関心が原因で表面化した初期の問題に、ログインアカウントがある。ヤフーは、既存のFlickrユーザーにヤフーアカウントでのログインを義務づけたのだ。これは2007年、コーポレートデベロップメントの結果の1つである。3月の13日、ついにヤフーアカウントでのログインが実施された。
ヤフー側の視点でみると、確かにログイン方法の改修は仕方が無かったのかもしれない。サービスが大きくなり国際的に使われるにつれて、各地域での法に従わなくてはいけない。すでにグローバル進出し法関連のローカライズが済んでいたヤフーとしては、Flickrログインをヤフーアカウントにすることで、すでにあるものを適用したかったのだろう。
しかし、もっと言うとヤフーはレバレッジが必要だったのだ。ヤフーとしては、既存のヤフーユーザーは、Flickrに別でサインアップするのではなくそのまますぐに使えるようにしたかったのだ。ヤフーメールとFlickrが垣根無しで使えるサービスにしたかったのだ。シームレスなサービスを作りたかったのだ。が、これはFlickrにとって、ひいては既存のFlickrユーザーにとっては何の得もない煩わしい改修となってしまった。
ヤフーアカウントでのログインは、既存のFlickrコミュニティにとって悪夢となった。自分の写真を見るのに今までのアカウントではログインできなくなったのだ。ヤフーアカウントを使わなければならない、持っていなければ新たに取得しなければならなくなった。さもなければ、Flickrのホームページにすらたどり着けず、ヤフーのログインページに飛ばされてしまうのだ。
ヤフー始まりでFlickrに大量のユーザーが流れ込みユーザー数自体は増量したが、影響力があるアーリーアダプターの集うコミュニティはこれが許せなかった。コミュニティの声、ユーザーの声(この場合は、ヤフーアカウント以外でもログインできる選択肢等)を完全に無視したこのやり方は、スマートとは言えない。元来Flickrに集まった人々が求めたものとは完全に逆の方向へFlickrが向かい始めた。アンチソーシャルである。
さらに、追い打ちをかけるようなメッセージが、ユーザーそしてFlickrチームに届いた。「あなたは、ヤフーサービスのメンバーとなりました。」
Flickrが誇りを持っていたことの1つは、カスタマーケアだ。コミュニティ形成の上で最もコアとなった部分である。しかし、ヤフーはここまでも既存の部署で管理したがった。ヤフーの狙ったゴールは、警告してから写真を取り下げるというやり方から、アップされる前に前もってユーザーのポストを見て精査してしまうというものだった。Flickrとしては、このやり方は時間がかかるだけでなく、ユーザーのプライバシーを大きく侵害するものだと考えた。そこでチームは1時間にも及ぶプレゼンを準備し、本社へ抗議のために出向いた。が、そこでカスタマーケアの担当である副社長は会議途中で時間がないと退席してしまうという事態に。
当時のFlickrコミュニティの担当者であったヘザー・チャンプ氏(Heather Champ)は、この会議こそ終わりの始まりだったと振り返る。「会議が終って、もうこれ以上この役目を続けるのは無理だと思いました。これ以上ここにいて、自分達が一生懸命作ったものが壊されていくのを見るのは無理だと思ったんです。」
2008年中頃には、Facebookがソーシャルネットワークとして目に見えてその力を巨大化してきた。大学生や高校生にとってこれ以上面白いツールはない。多くの人がすぐにいろいろな人に友達申請を送り、あっと言う間にそのユーザー数は1億人を超えた。
この頃ヤフー社内では、すでにいくつかのソーシャルサービスと巨大なユーザーを持ちながら、検索で出し抜かれたように、ソーシャルでもまた出し抜かれてしまうという懸念の声があがっていた。
「今あるソーシャルネットワークサービスで何か対策を練らないと、Facebookに社会人層まで全部もって行かれてしまう。そうヤフーに長年忠告してきたんです。なのにどうにもならなかった。」ヤフーのサービスにもFlickrにも携わった経験を持つ元ヤフーのエンジニアはそう語る。
ヤフーは2006年に10億ドルでFacebookを買収しようとした過去がある。ここで買収に失敗し、その2年後には、すでにFacebookは買収するには巨大化しすぎていた。Facebookを倒すために残された方法はただ1つ、よい良いサービスを自前で作ることであった。戦いのためにヤフーが持っている1番の武器、それはFlickrだったのだ。しかし、この時すでに遅し。Flickrはその力を失っていた。
前出の元ヤフーエンジニアは、さらにこう語る。「Flickrはもうスタートアップじゃなくなっていました。再向上させるためになんとかしようと努力する人間が少なくなっていたのです。例えそんな人間がいたとしても、Flickrはすでにクールじゃなくなっていたんです。デザインもダサイ退屈な場所、そう思われ始めていたのです。労力はすべて、見た目のデザインに費やされ、何が良かったかなどの数字的なレポートは無視されていました。少しずつ壊れて行くFlickrやヤフーを見なくてはならなかったのは、ストレスのたまる状況でした。」
”- ヤフーがどのようにFlickrをダメにしたのか? スタートアップが大企業に買収されるということ : ギズモード・ジャパン (via petapeta)