羽生結弦はそれを「発明ノート」と呼ぶ。
毎日のように、練習で気になったことや思いついたことを殴り書きする。スピード、タイミング、感覚……。自分が試してみて良かったことと悪かったこと、疑問点などが記されている。
金メダルを決めたフリー。そうやって身につけてきたジャンプの中の一つに救われた。
後半に跳ぶ、トリプルアクセル(3回転半)からの連続ジャンプ二つ。やや体勢を崩したものもあったが、いずれも成功した。一つで16・29点、もう一つで11・07点を稼いだ。フリーは三つのミスをしてもなお、技術点は89・66点。24選手中最高だった。
「発明ノート」は就寝前、布団に入ってイメージトレーニングをしている最中にひらめき、起き上がって書くこともある。「眠い、と思いながら机に向かって、ガーッと書いて、パタッと寝る。見せられるほど奇麗な字では書いてないです」と羽生。翌日リンクに立った時、ひらめきを試し、その成果をまた書き込む。
羽生は同世代の選手よりも、3回転ジャンプを跳べるようになるのが遅かった。本人も「本当にジャンプは苦手でした」。大会で負けては号泣した。
悔しくて、上手な人のジャンプを研究した。助走の軌道は? 跳び上がるベクトルは? ばらばらにしたパーツを組み合わせては試した。中学や高校の成績はオール5。中でも、数学や力学は好きな分野だ。「ジャンプを科学しているわけではないですが、理論的に感覚と常識的なことを合わせて、スピードの関係、タイミングをノートに書いた」
今、「トリプルアクセルは、しばらく休んでいてもすぐに跳べる」絶対的なジャンプになった。今大会は、正確無比なジャンプを三つ決めたショートプログラムも、フリーも1位。「あれだけジャンプを出来たことが大きかった。やはりそれが僕の今回の勝因かなって思っています」(後藤太輔)
”- 羽生、王子から王者へ 苦手のジャンプ、「科学」で克服:朝日新聞デジタル (via mayumiura)