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"「ハンガーは木製じゃないと嫌」そんなポリシーを抱えていた彼女が去っていった。僕の心にその台詞を残して……そして僕のクローゼットにハンガーを残して……5本もある。僕は衣装持ちでもないし、服を脱いだ後にきち..."

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“「ハンガーは木製じゃないと嫌」

そんなポリシーを抱えていた彼女が去っていった。
僕の心にその台詞を残して……
そして僕のクローゼットにハンガーを残して……5本もある。
僕は衣装持ちでもないし、服を脱いだ後にきちんとハンガーにかけるタイプでもない。
以前なら、彼女が僕の洋服を全て吊るしてくれた。
今となっては、僕の洋服はフローリングの床でくしゃくしゃに横たわっている。

彼女は僕の部屋を去る時、どうしてハンガーを残していったのだろう?……5本も。
自分の洋服をクローゼットから取り出す時、ハンガーもいっしょに持ち去ることを考えなかったのだろうか?
そこに吊るす洋服よりも気に入っていたハンガーを。
木の手触り、におい、そして時代の移ろいを表すかのような木目調。
そこに彼女の面影を、彼女の意思を、彼女なりのメッセージを読み取ろうとしても、それらは何も語らない。
彼女が出て行ったという事実以外には。
僕をあざ笑うかのように、僕を慰めるかのように、ただひそやかに揺れるだけ。

彼女が残していったハンガー。
それは僕の部屋の、僕のクローゼットの中で、丘の上に建てられた十字架のようにそっと息をひそめている。
処刑が済んでも十字架は残るのだ。処刑が行われたという事実を人々に忘れさせないように。
僕はおそらく、彼女のことを一生忘れないだろう。
それらを処分したとしても。
それらに他の女性の洋服を吊るしても。
プラスチックの安っぽいハンガーでクローゼットをいっぱいにしても。

僕はそっと床に落ちているパーカーを拾い上げ、1本のハンガーにかける。
残りは4本。
しみのついたTシャツ、ダッフルコート、彼女がくれたマフラー……
部屋を見渡しても、もうこれ以上ハンガーにかけられるようなものが見つからなかったから、
左右の溝にベルトループをかけて、無理やりジーパンを吊るした。
ハンガーにかけられたジーパンは、さびれた港で日干ししているスルメのように見えた。

そして僕はもっと惨めになって、そっとクローゼットの扉を閉める……”

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